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放射線被ばくについて

Q. 私たちは日常生活でどの位被ばくしているのですか?

A. 私たちは普段生活しているときにも、地殻中あるいは大気中に存在する放射性物質や、地球以外のはるか彼方から地上に飛来する宇宙線など自然放射線による被ばくを常に受けています。
これらの被ばくには、宇宙線や地殻中からの放射線による外部被ばくと食物摂取や呼吸によって体内に摂取される放射線核種による内部被ばくに分類されます。
自然放射線源による世界の平均年間被ばく線量(実効線量)は、2.4 mSvとなっています。

外部被ばく 宇宙から 0.39 mSv
地殻中から 0.48 mSv
内部被ばく 食事から 0.29 mSv
呼吸から 1.26 mSv
合計   2.42 mSv

(日本の平均年間被ばく線量は呼吸からの被ばくが少ないため、1.5 mSvといわれています)


Q. 放射線の単位にはどのようなものがあるのでしょうか?

A. 放射線の単位は、Bq・Gy・Svがよく使われます。

① Bq(ベクレル)
1 秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量を1ベクレルといいます。

② Gy(グレイ)
ある物質によって、吸収されたエネルギーで吸収線量ともいわれます。
1Gy=1kgあたり1J(ジュール)のエネルギーを吸収した線量

③ Sv(シーベルト)
健康への影響の大きさをあらわす量で、等価線量と実効線量にわけられます。それぞれを簡単に説明すると
放射線にはX線、α線、β線、γ線、重粒子など多種類ありますが、同じ線量(グレイ)でも健康に対する影響は異なります。異なる放射線の影響は、放射線加重係数とよばれる係数をかけて比べます。

等価線量(Sv)=吸収線量(Gy)×放射線加重係数

放射線被ばくの影響は骨髄(白血病)や筋肉(肉腫)など被ばくする部位により異なります。このため、等価線量に組織加重係数をかけた実効線量を用います。

実効線量(Sv)=等価線量(Sv)×組織加重係数

これらにより、異なる放射線の種類や放射線を被ばくした部位によらず、その影響を評価できます。mSv(ミリシベールト)は、Svの1/1000の値で、1Sv=1000 mSvとなります。
異なる概念を、同じSvという単位で表現するため、非常にややこしいですが、等価線量≠実効線量です。例えば甲状腺の組織加重係数は0.05です。甲状腺にのみ等価線量で、100 mSvの被ばくをすると、実効線量は5 mSvとなります。さらに、非常にややこしいのですが、逆は真にならずで甲状腺の実効線量が5 mSvの被ばくといって等価線量100 mSvの被ばくとはいえないのです。非常にややこしいため、混同されることも多く、注意が必要です。
また、線量計で測れるのは等価線量(厳密には吸収線量)ですので、線量計の読み値が即健康に影響する実効線量ではありません。


Q. 被ばくによるからだへの影響は?

A. 
① 身体的影響と遺伝的影響
被ばくでからだにあらわれる影響は、身体的影響(被ばくした人にのみあらわれる影響)と遺伝的影響(被ばくした人の子孫に影響を及ぼす)に大きく分けられます。
身体的影響はさらに、急性障害(数週間以内にあらわれる障害)と晩期障害(数年あるいはそれ以上に長い潜伏期間を経てあらわれる障害)にわけられます。母体内で被ばくしたため出生時異常(死産、形態異常など)を来すことがありますが、これも胎児の身体的影響に含まれます。
遺伝的影響は、動物実験では親が放射線に被ばくした後に受精し産まれた子供で確認されていますが、ヒトでは確認されていません。

身体的影響 急性障害 造血器障害、皮膚障害(紅斑、脱毛)、奇形など
晩期障害 発がん、白内障、不妊など
遺伝的影響    

② 確率的影響と確定的影響
放射線防護上から確率的影響と確定的影響にわけられます。
確率的影響は放射線防護上の観点から、影響があらわれる最低線量値(しきい値)はないと仮定されています。そして被ばく線量の増大とともに影響の発生する確率が増えると考えられています。発がんと遺伝的影響がこれに分類されます。
確定的影響とは、影響があらわれる最低線量値(しきい値)がみられ、その値を超えないと症状はでません。そしてしきい値を超えると確率的影響と同様に被ばく線量の増大とともに影響の発生する確率が増加し、影響も重篤化します。発がん、遺伝的影響以外のもの(造血器障害、皮膚障害、白内障、不妊など)がこれに分類されます。

確率的影響 しきい値なし 発がん、遺伝的影響
確定的影響 しきい値あり 上記以外
(造血器障害、皮膚障害、白内障、不妊など)

③ 回復現象
少量の被ばくをしても、多くの場合は短時間のうちに修復、回復され影響は残りません。しかし、一度に多量の被ばくをするとDNAの損傷も増えます。DNAの損傷が修復、回復能力を上回る場合や、修復、回復の過程でエラーが生じた場合に、からだに影響があらわれると考えられています。
そのため、同じ線量の被ばくでも、回数や期間が異なる場合は、あらわれる影響は違います。


Q. 被ばくにはどんな種類がありますか?

A. 

① 外部被ばくと内部被ばく
外部被ばくは、からだの外側にある線源から放射線を浴びることで、CTやX線検査、IVR、放射線治療などの病院の検査や治療の多くがこれにあたります。内部被ばくは、からだの内側にある線源から放射線をあびるもので、病院の検査では核医学検査や小線源治療がこれにあたります。

② 全身被ばくと局所被ばく
放射線の人体への影響は、主に被ばくした部位に起こります。放射線を全身に被ばくする場合と局所的に被ばくする場合では影響が異なります。
全身被ばくでは、被ばく線量があがるにつれ、全身の中で感受性の高い組織より障害が発生しますが、局所被ばくでは、被ばく線量に応じて浴びた部分で障害が発生します。
病院での検査や治療は、ほとんどが局所被ばくにあたります。

③ 低線量被ばくと高線量被ばく
一般的に100 mGy以下の被ばくを低線量被ばくといい、それ以上の被ばくを高線量被ばくといいます。
病院の検査・治療では、X線検査、CT、核医学検査は低線量被ばくにあたり、放射線治療、一部のIVRが高線量被ばくとなります。


Q. 病院での放射線を使う検査・治療の被ばくが心配なのですが?

A.  CT・核医学検査・X線検査や、IVR・放射線治療など病院では放射線を用いた検査・治療が行われています。これら医療での放射線被ばくは、他の被ばく(自然放射線からの被ばくや原発事故などでの被ばくなど)と違い、検査・治療に必要最低限な線量が適切に管理され被ばくする部位も必要最小限になるように管理されています。
また、患者さん自身へのメリットが被ばくによるリスクよりも大きく上回るものです。
日本の法律のもとになっている国際放射線防護委員会 (ICRP) では、医療行為に関連した被ばくを医療被曝と呼び、それ以外で受ける公衆被曝と区別しています。

それぞれについてご説明致します。

①CT、核医学検査、X線検査などによる被ばく

同じ検査をうけても、撮影機器や患者さんの体格、年齢により異なります。およその実効線量をしめすと、次のようになります。

検査 実効線量(mSv)
腹部CT 5~7
下部消化管造影 3~6
乳腺撮影 0.3~0.6
胸部X線検査 0.1~0.2
PET 3.5

検査による放射線被ばくは、検査によっては、年間の自然被ばく線量と比較するとやや多いです。
ただし、体調の悪い時に重篤な病気が早期に発見できたり、ないことが確認できたり、定期的に検査を受けている方は早期に病状を把握できるなど、患者さんにとってメリットのある被ばくです。ごくわずかな放射線による健康被害の可能性のリスクとメリットを考慮すると通常は大きくメリットが上回ります。

②IVRによる被ばく
IVRでは基本的には放射線による障害の起こらない程度の被ばくですが、治療を行う場合には透視時間が長時間に及び障害が発生することがあります。具体的には、脱毛や皮膚の発赤・潰瘍などの皮膚障害があげられます。ただし、心臓の血管の治療や脳の血管の治療など患者さんの生命に直接影響する場合が多くメリットは大きいです。

③放射線治療による被ばく
放射線治療による被ばくは高線量被ばくであり、治療うける部位により様々な合併症を伴います。ただし、がんの治療による寿命の延長や、症状の改善など行うことによるメリットは非常に大きいです。
放射線治療を受ける時は経験の深い放射線治療専門医のもとで行われます。治療の開始前には放射線照射よる合併症や効果などの説明が必ず行われます。不安のある場合には放射線科受診時にご相談下さい。


Q. 子供が放射線検査を受けても大丈夫ですか?

A. 一般的に大人と比較して放射線の影響を受けやすいと考えられています。そのため、なるべく被ばくを伴わない検査が選択されています。しかしながら、被ばくを伴う検査以外に代替できない場合もあり、その場合は子供も体格に合わせて大人とは設定を変更し、より低線量の被ばくとなるよう心がけております。


Q. 妊婦が放射線検査を受けても大丈夫ですか?

A. 放射線被ばくによる胎児への影響は以下のように考えられています。

時期 影響 しきい値(mGy)
着床前(受精~9日) 流産 100
器官形成期(3~8週) 奇形 100
胎児期(8~15週) 精神発達遅滞 100

放射線検査では100m Gyを超える被ばくをすることは基本的にはなく、妊娠に気がつかず検査を行ってしまった場合にも、被ばくを理由に中絶など行う必要はありません。上記の時期を過ぎた胎児の被ばくは乳幼児と同程度と考えられています。


Q. 放射線検査を受けた場合に不妊になることはありますか?

A. 生殖腺が被ばくすると、線量により、一時的に不妊になったり、永久不妊となります。ただし、通常の放射線検査で、不妊のしきい値を超えることはありません。

性別 症状 急性被ばく(mGy)
男性 一時不妊 150
永久不妊 3500
女性 一時不妊 650
永久不妊 2500